柔らかい=正義。実は危険かも!?理学療法でも重視される概念「mobility on stability」の水泳への活かし方

Shiroです。先日、私の見ているある選手が初めてJO出場を決めました。本人の頑張りと保護者様の支えあってこそだと分かってはいても、やはり選手の成長、そして本人が目標を達成する瞬間というのはこちらとしても嬉しいですね。

さて、今回は理学療法学やスポーツ医学など様々な分野で登場する「mobility on stability 」という概念について紹介し、「身体の柔軟性はあればあるほど良いという考え方」って実は危険かも?という話をしようかなと思います。

mobility on stabilityとは?

mobility on stabilityとは理学療法学やスポーツ医学などでよく用いられる概念であり、私も大学の講義にて学びました。

これは体の動き(mobility)と安定性(sutability)の関係を表しているもので、関節の運動をとらえるうえでの基本的な概念になります。

mobilityとは
モビリティと言い、「可動性」「動きをコントロールできる力」を意味します。
関節の柔軟性はmobilityの一部であり、「自ら制御する能力」も重要になってきます。
充分なmobilityがなければ体は効率的に動かせず、パフォーマンス低下や怪我につながる動きとなってしまいます。
水泳でいうところの「水泳肩」というものが分かりやすいかなと思います。
本来は肩甲骨周りが充分に動くことで体幹の回旋に合わせて腕が自然と前へ運ばれます。しかし、肩甲骨周りのmobilityが不足していると、腕だけのクロールになり、肩に過度な負担が集中することによって、インピンジメント、いわゆる水泳肩となってしまいます。
stabilityとは
スタビリティはそのまま「安定性」を意味します。
関節が動く際に体をしっかりと支える能力のことを指します。
基本的に筋肉の協同的な収縮や靭帯、腱などの軟部組織、骨などで発揮されます。
複数の筋肉が協調して働くことで体が安定し、水泳においてもstabilityを強化し、体幹を強くいておくと、水平な姿勢を保つことが可能となり、抵抗を少なくすることができます。

mobility on stabilityはこれら2つが統合され、「安定した土台の上で思い通りに動けている状態」と言うことができます。

mobility on stabilityを説明する上でよく同時にに説明される理論がこの概念を基に考案されたjoint by joint理論です。この理論は、図のように身体の関節は上から「mobility担当」「stability担当」が交互に配置されている、というものです。

したがって、肩関節のmobilityを最大限発揮するためには肩甲骨周りのstabilityが充分に発揮されている(土台がちゃんとある)状態が必要である。などと考えることができます。

実習で学んだmobility on stabilityの臨床応用

ここまではmobility on stabilityを理論として説明してみましたが、ここでは「臨床ではこのようにリハビリに用いられていた」という話を紹介をします。

前回の臨床実習で関節の可動域に制限のある患者さんに対してリハビリを行う際、指導者の先生からこのようなことを教えていただきました。

「ストレッチなどでROM(関節の可動域のこと)を改善させたあとは関節は安定性を失っている状態とも言えるから、すぐに歩くんじゃなくて、筋トレとか自分で動かすことで安定性を戻してから歩いたほうがいいよ」

私にとっては初耳のことでしたが、この考え方の背景にはmobility on stabilityがあるのではないかと瞬時に考え納得しました。

確かにこの人の動作を邪魔しているのはROMの不足なのですが、その広がった可動域は外的な要因で変えられたもので、身体の他の部分はその可動域についていけないかもしれない。だからこそstabilityも同時に強化し、それによってmobilityとして改善されたとみることができるというのは私にとって非常に説得力がありました。

また、実際に脳卒中の人の歩行に関する予後予測には体幹の機能に関するテストを行います。このことからもmobility on stabilityを背景にリハビリを実施していくというのは理にかなっているのだなと感じます。

こういった知識や経験から、以前から感じていた違和感について自分なりに結論を出してみました。それを最後に話していこうと思います。

身体が柔らかい=正義は危険かも?

私は現役選手のころから「身体は柔らかければ柔らかいほどいい」という風潮に少し疑問を持っていました。

もちろん柔軟性は大きな武器であり、柔軟性不足と比べると得られるメリットは大きいです。しかしそんなに柔らかくある必要性はあるのか。逆に怪我しそうな感じがする…。こういった不安がありながらも、どこまでも柔らかくしようと、現役時代の私もストレッチにいそしんでいました。

大学に入り、「筋の低緊張による障害」を学ぶと、いっそうその違和感は強まりました。また、水泳選手の肩の痛みの要因を調べたシステマティックレビュー(June K. et al, 2024[1])では、若年水泳選手の肩の痛みの要因の中に「肩関節の過度な弛緩」と「肩外旋可動域の上昇」、「肩内外旋筋力の低下」、「体幹の持久力低下」が含まれていました。

関節のゆるみが起きている、つまり「制御なき過剰可動域」はmobilityとは言えず、怪我の原因となりえる、ということが大学での知識から説明することができるようになりました。

加えて筋力の低下や体幹の持久力低下、つまりstabilityの不足についても怪我と関連しているということは水泳にはmobilityとstabilityという両方の要素が必要であり、まさに「安定した土台の上で思い通りに動けている状態」というmobility on stabilityが理想の泳ぎとなるわけです。

ジュニア選手に対する体幹のstabilityを強化するトレーニングがパフォーマンス改善につながったという研究(Liu S. et al, 2025[2])も存在し、「安定性(=一定の動きにくさ)」も重要であり、「柔らかい=速い」というわけではないのです。

まとめ

タイムを伸ばしたい!僕は体が硬いからストレッチを頑張らなきゃ!

こう思うのも無理はありません。何度も書きますが柔軟性は大きな武器です。一定の柔らかさは怪我を予防するためにも、パフォーマンスを上げるためにも必要です。私がお伝えしたいのは、ストレッチのみで満足せず、その可動域内での制御を知ること、そのためには必ず土台となる部分が身体のどこかにないといけない。これを頭の片隅にでも覚えておいてほしいのです。

水泳は水中という特殊な環境で速さを追い求めるスポーツです。水中では自分の身体こそが一番の土台です。土台が崩れれば泳ぎは非効率なものになり、怪我のリスクにもなる。

土台づくりと体のコントロールを知ることでタイムも伸びやすく、長く水泳ができる身体になっていくと思います。

今回は肩の話が多かったので、足についても考えながら、個人的な長く水泳を続けるためのフィン選びについて書こうかなと思います。

引用文献
[1]Kennedy JS, Otley T, Hendren S, Myers H, Tate A.
Sink or Swim? Clinical Objective Tests and Measures Associated with Shoulder Pain in Swimmers of Varied Age Levels of Competition: A Systematic Review.
Int J Sports Phys Ther. 2024;19(1):1381–1397. doi:10.26603/001c.90282.
[2]Liu S, Dai J, Gou P, Lin M. The effects of core stability training on swimming performance in youth swimmers: a systematic review and meta-analysis. BMC Sports Sci Med Rehabil. 2025 Nov 11;17(1):327. doi: 10.1186/s13102-025-01366-1. PMID: 41219810; PMCID: PMC12606982.

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