理学療法士の卵が解説!トレーニングの原理・原則と水泳の練習メニューの関係

shiroです。春のJOの制限タイムに挑戦する大会がひと段落した頃でしょうか。

この時期から、また新たなシーズンに向けた練習がスタートするチームも多いと思います。
そこで今回は、大学でも最初の方に習うトレーニングの原理・原則について、
「水泳の練習メニューや陸上トレーニングにどのように生かすか」という視点でわかりやすく解説します。

選手やその保護者の方にも、
「この練習は何のためにやっているのか」
「今この練習が自分にとって必要なのか」
がわかるような内容になっていますので、ぜひ最後までご覧ください。

トレーニングの原理

トレーニングには一般的に3つの原理があります。
それが

➡︎ 過負荷の原理
➡︎ 特異性の原理
➡︎ 可逆性の原理

です。

●過負荷の原理

「もっと頑張れ」だけでは伸びない

身体能力を向上させるためには、今の身体が“簡単に対応できる範囲”を超えた刺激を与える必要があります。
これを過負荷の原理といいます。

水泳の場合、必ずしも距離を長く泳ぐだけが過負荷ではありません。
以下のような負荷の要素を組み合わせることで、多面的に成長を促します。

負荷の要素と狙い

・強度(Intensity)
スピードや目標心拍数の設定
→ 神経系の動員、乳酸耐性の向上、最大酸素摂取量(VO₂max)の改善につながります。

・量(Volume)
総距離・本数・セット数の調整
→ エネルギー代謝系の効率化や毛細血管の発達に寄与します。

・密度(Density)
休憩時間やセット間の感覚
→ 回復能力を高め、疲労している状態でも動ける力をつけます。(=いわゆる耐乳酸)

・複雑性(Complexity)
ドリルや複数動作の組み合わせ
→ 運動制御能力を向上させ、神経系の統合力を高めます。

◆ジュニア選手に対する過負荷の質

成長期は大人とは違います。以下のような段階的な刺激が、単に練習を増やすだけの練習よりも安全かつ効果的な成長を促します。

小学生:
心肺機能への刺激、神経系の基盤作りが最優先です。
具体的には「酸素を効率よく取り入れて動く力」を養うことに重きを置きます。

中学生以降:
筋量が増え、無酸素系の能力向上が目立ってきます。
乳酸を出しながら動ける力(乳酸耐性)を高める刺激に関しても増やす必要が出てきます。

小学生でも高強度運動そのものは実施可能ですが、乳酸産生能力の発達段階を踏まえると、量や頻度は慎重に設定する必要があります。

なぜこんなことが言えるのかは後述させていただきます

特異性の原理

陸上トレーニングを水泳にちゃんと活かすコツ

特異性の原理とは、
「トレーニングの効果は、刺激した動きやエネルギー供給系に特有に現れる」
という原理です。

たとえば、キック力を高めたいからといってスクワットだけをやっていても、
スクワット=水中キック力向上に直結するとは限りません。

水泳のキックは…

  • 股関節の伸展
  • 膝の曲げ伸ばし
  • 足首の底屈(つま先を伸ばす動き)

が一連の連動で行われます。
水泳では、体幹の安定を保ちながらこの連動を再現できる筋力が重要です。

そのため、ただのスクワットで終わらせず、体幹トレーニングを併用したり、水泳の「速く動かす」ことに合わせたジャンプスクワットのような速く動く種目に変えたりすることが望まれます。

(今回はあくまでキック力向上を目的とした想定の話です。普通のスクワットも最大筋力の向上や壁を蹴る動作に対して非常に有効です)

可逆性の原理

休むと感覚がずれてしまう理由

トレーニングによって得られた体力や技術は、
トレーニングを止めると少しずつ失われていきます。
これが可逆性の原理です。

水泳では、とくに「水の感覚」と呼ばれる水中での感覚的適応が目に見えて落ちることがあります。
これは、水中という高密度の環境に適応した感覚や運動制御が、神経系の適応として獲得されているからです。

有酸素能力も、数週間の休養で低下することが研究でも示されています。

ただし、計画的に練習量を落とすテーパリングは、
この可逆性の原理を活かした高度な調整方法として非常に有効です。

トレーニングの5原則

トレーニングには原理だけではなく原則として語られる要素もあります。それが以下の5つのトレーニングの原則です。

意識性の原則

皆さんは練習中、どこを鍛えているか・どこをどのように動かしているか言えるでしょうか

「100m10本ハード」という指示だけでは、選手はただ速く泳げばいいとだけ理解してしまいます。実際には1本目から良いタイムで泳いでほしいのに、最後まで温存して最後の一本はタイムが上がるという場面はよくあります。

この原則は、選手自身がトレーニングの目的や対象を理解することを重視します。

  • 目的の意識
    → この練習はどんな能力を上げることが目的なのか
  • 部位の意識
    → この動きはどこの筋肉・関節が動いているのか
  • 動作の意識
    → フォームで意識しなければいけないところはどこか

この3つを選手に伝え、言語化することが大切です。

全面性の原則

バランスよく鍛えることが成長の鍵

特にジュニア選手においては、同じ練習ばかり行ったり、早期に特定の種目だけに特化しすぎることは将来的な伸びしろを削るリスクがあります。

理学療法的な観点からしても、水泳という「左右対称に近い運動」において、身体の左右バランスや、肩甲骨周囲筋などの体幹部のバランスを整えることが、怪我の予防に直結します。

漸進性の原則

急がば回れ。少しずつが怪我を遠ざける

トレーニングの負荷を一気に上げると、
身体の限界を越えてしまい、怪我やオーバーワークにつながります。

負荷の指標としてシンプルに考える式の一つが、

負荷量=(距離×一本当たりの強度)÷休憩時間

もちろんこれは簡易的なモデルですが、負荷を上げすぎない目安として役に立ちます。

成長期の選手は、
骨の成長に筋肉や神経の適応がまだ追いついていないことがあり、
いきなり強い刺激を入れると、腰椎分離症などのリスクが高まります。

違和感や痛みが出た際は体のケアをしっかりと行い、病院への受診も検討し、慎重に負荷を積み上げていきましょう。

個別性の原則

みんなちがってみんないい。自分に合った練習を

ジュニア選手では同じ年齢でも個人差が大きいです。選手の育成において、個別性の原則を適用すべき具体的な要素は以下の通りです。

  • 発育段階の個別性→早熟型の選手と晩成型の選手では、同じ中学生でも筋力トレーニングの導入時期を変えることがあります。
  • 種目特性の個別性→スプリンターには神経系の爆発的な刺激を、ロングの選手には心肺機能の持続的な負荷を重視します 。
  • 身体構造の個別性→肩の関節が柔らかすぎる選手には安定性を高める訓練を、硬すぎる選手には可動域を広げるストレッチを優先します 。

実際にはここまでの個別性を出すのは難しいですが、ジュニアコースの子たちには特にこれを意識して指導しています。

反復性の原則

一朝一夕で身体も動きも変わらない

優れたパフォーマンスを再現するには、
正しい動作を長期間・繰り返し練習することが必須です。

ただし、ただ単純に同じことを繰り返すだけでは集中力が低下します。

そのため、

  • フィンやパドルなどの道具を使う
  • 目標タイムを細かく設定する
  • 同じ目的でも複数パターンの練習を用意する

などの工夫を取り入れて、飽きさせずに本質的な動作を反復させます。

トレーニングの原理原則に合わせたメニュー例

タバタ式HIIT

25m×8本/30秒サイクル(20秒全力+10秒休憩)

密度と強度をを調整することで、心肺機能を高めるメニューです。
このメニューをまとまった期間や一定の頻度で行うことで、過負荷×漸進性から効果的にアプローチすることができると考えています。

タバタ式トレーニングは日本人の田畑さんが考案したトレーニング法であり、水泳に関する練習法ではないのですが、私の現役時代の先輩も実践しており、導入してから100m自由型54秒台から1.2秒も上げた練習で私もよくメニューに取り入れています。

スーパースプリント

10m×4本程度/2分サイクル

壁をつかんで浮いた状態からその場でターン、すぐにバタフライのキックで浮き上がってその場ターン。すぐに壁まで戻ってターン。3ストロークして終了。

神経系の発達を促す練習のため「今だけは泳ぎのフォームは無視していいよ。その代わりひたすら身体を速く動かすこと、動作ごとの切り替えの早さを意識して」と指示することで、特異性と意識性を意識した指導を行っています。

発育発達の考え方 — スキャモン曲線から考える個別性

ジュニア期の身体発達は均一ではありません。下の図はスキャモンの発達曲線と言われる年齢ごとの発育割合を示したもので、それぞれの特徴が大きく異なることが分かります。

  • プレゴールデンエイジ(3〜8歳)
    → 神経系の急速な発達
  • ゴールデンエイジ(9〜12歳)
    → 技術の習得が最も効率的
  • ポストゴールデンエイジ(13歳〜)
    → 骨格・筋肉・心肺機能の成長が加速

この時期の特徴を踏まえて、神経系・技術・筋力・心肺機能をバランス良く育てることが大切です。

大会前の調整(テーパリング)の科学

大会1〜2週間前のテーパリングは
単なる休みではなく、疲労を抜きつつ身体の状態を最高潮に整えるプロセスです。

テーパリングにおいて調整が必要な項目と内容をまとめました。

項目              調整内容           
練習量(Volume)30〜50%削減
強度(Intensity)レースペース以上は維持
頻度(Frequency)ほぼ維持
主観的強度しんどさを下げる

しっかり休みながら、神経系・心肺・筋グリコーゲンの回復を優先することで、レース当日に最大パフォーマンスを引き出せます。

まとめ

泳ぎを上達させることは決して楽な道のりではありません。しかし、今回解説したトレーニングの原理・原則を身体を理解したうえで実践すれば、単なる努力を確実性のあるものに引き上げてくれます。

過負荷と漸進性により、身体を着実に進化させる

特異性と意識性により、無駄な動きを省き、水への推進力を極める

全面性と個別性により、一人ひとりの才能を怪我なく開花させる

反復性と可逆性を理解し、粘り強く、かつ戦略的に継続する

ただ泳がせることがコーチの仕事ではありません。これはただ運動させることが仕事ではない理学療法士にも言えることです。

科学的な目をもって対象者をとらえ、メニューを構築します。

理学療法学はその科学的な目を作るための大事なツールであり、トレーニングの実践につなげることで選手の可能性は飛躍的に広がると考えています。

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