shiroです。今回は前回の続き、水泳バイオメカニクスの【クロール編】です!
すべての泳ぎの基礎となるクロールですので、ぜひ選手やコーチの皆さんに知っておいてほしいなと思うことをまとめました!
選手が伸びるかどうかを決めるもの
水泳は
ただがむしゃらに泳げば速くなる競技ではありません。
水中での力の伝え方を知っているか
これによって、同じ練習をしてもどれくらい伸びるかは大きく変わります。
クロールにおいては
・どの方向に力を加えているか
・その力がどれだけ推進に変換されているか
がパフォーマンスを規定します。
本記事では
・クロールの動作をバイオメカニクス的に分解
・推進力の発生メカニズム
・障害との関係
・技術改善の方法
を整理します。
クロールの捉え方:周期的反復運動としての理解
クロールは
上肢・体幹・下肢
という全身が連動しながら繰り返される
周期的反復運動として捉えられると考えています。
個人的には
・各部位が独立して動くのではなく
・近位から遠位へ力が伝達される
という点で運動連鎖(kinetic chain)を意識すると理解しやすいと考えています。
運動連鎖とは身体の一部を動かした際に、隣接する関節や筋肉が連動し、全身へ波及的に力が伝わる仕組みのことです。
この概念は理学療法士が行う歩行分析やプロ選手の投球動作の解析などでも用いられており、
クロールにも十分応用可能です。
ストロークの分解ー身体はどのようにして推進力を生むのか
クロールのストロークは以下の5つの局面に分けることができ、Maglischoらの研究においてもこの考えは採用されています。
- エントリー
- キャッチ
- プル
- プッシュ
- リカバリー
さらに現場では、時計を使って
- エントリー→2時~3時
- キャッチ→3時~4時
- プル→4時~6時
- プッシュ→6時~7時
- フィニッシュ→7時~9時
- リカバリー→9時から2時
のように教えることもあり、動作のタイミングを把握したり、動作をイメージする上で有効です。
(ピッチを上げるために7時のところから力を抜いて、フィニッシュをせずにリカバリーに入るように指導することもあります。)

●各局面の役割・力学・運動・筋活動
ここでは各局面を論文をベースに、論文が言っていることと、そこに私の解釈を交えて解説していきます。
◆キャッチ
論文からわかること
・手部は前方で入水し、水に対して角度を持つことで流体力(揚力・抗力)が発生する
(Schleihauf RE, 1979)
・ストローク初期では推進力はまだ小さい
(Toussaint HM, 2002)
→この局面は推進力を生むというより、水を捉える準備段階
したがって、身体が進む方向を決めるストロークにおける最重要局面と考えられる
◆プル・プッシュ(論文によって厳密な定義が異なるため、同時に扱います)
論文からわかること
・手部が後方へ移動し始め、推進力が増加し、最大(ストローク後半)となる
(Toussaint, 2002)
・大胸筋・広背筋の活動がピークに近づく
(Pink, 1991)
→プル終盤からプッシュにかけて推進力が最大となる
◆フィニッシュ
論文からわかること
・推進力はピーク後に減少する
(Toussaint, 2002)
・上腕三頭筋の活動がストローク終末で増加
(Pink, 1991)
→推進力をさらに増やす局面ではなく、減速を最小限にしながら水から離脱する局面
ここで抵抗を作ると、速度低下に直結する
◆リカバリー
論文からわかること
・空中動作であり、推進力には直接寄与しない
(一般的運動学的整理)
→次のストロークに向けた準備局面
肩関節への負担管理の観点で重要
※この部分は一次研究よりも教科書的整理の要素が強いため、私のの整理を含みます
●ストローク全体の本質
論文からわかること
・推進力はストローク中で一定ではなく変動する
(Toussaint, 2002)
→クロールは「力を出し続ける運動」ではなく
力の出しどころをコントロールする運動
●ローリング(体幹回旋)の役割
論文からわかること
・体幹回旋はストロークと同期して発生する
(Yanai Tら, 2004)
・肩関節負担軽減に関与する
(同研究)
→ローリングは単なる動きではなく
上肢の可動域確保と力の発揮を助ける補助機構
キックの役割
キックに関しては最近は当たり前になっていますが、上肢に比べて推進力への寄与は圧倒的に低いことが分かっています。(全体の10~15%)(Deschodt et al., 1999)
個人的な解釈としても、キックの役割は以下が主であると考えています。
・姿勢保持
・抵抗軽減
・リズム形成
=安定化機構として重要
●キックの分解
キックの分解はストロークほど複雑ではありません
- ダウンキック
- アップキック
のふたつです。

ダウンキック→大腿四頭筋(前腿の筋肉)優位
アップキック→大殿筋(お尻の筋肉)、ハムストリングス(腿裏の筋肉)優位
(Bollens et al., 1988】)
●いいキックとは
・股関節主導←主な筋肉が股関節回りの筋肉のため
・上下ともに軽く力を使う←アップキックで力を抜くとリズムが壊れてしまう
・足首リラックス←足関節底屈により効率向上の報告あり(Zamparo et al., 2006)
クロールと障害との関連(特に肩)
クロールの選手において怪我しやすいのはやはり肩で、研究でもそのことが示されています。(Sein MLら, 2010)
Seinらの同研究では反復運動と過負荷が要因とされており、システマティックレビューでは、強いエビデンスはないものの、肩周囲筋群の活動パターンや関節弛緩性などが中等度のエビデンスとして挙げられています。
このことから言えるのは
- 肩の障害が多いことは間違いない
- 肩の障害は一つの要因ではなく多因子で発生する
したがって
複数の観点から予防することが重要
であると解釈することができます。
肩の障害の予防を助けるものとして具体例を挙げるとするならば、
①負荷管理
根拠:トレーニング量や急激な負荷増加が肩痛と関連
(複数レビュー、特にACWR関連研究)
→急激に練習量を増やさない
週単位で段階的に増やす
疲労が強い日は質を落とす
②肩周囲筋の機能改善
根拠:後方肩筋群の持久力低下が関連
(McKenzie et al., 2023)
→低負荷×高回数のエクササイズ
ローテーターカフ(特に外旋)
前鋸筋・下部僧帽筋の活性化
のようなものだと思います。
しかしもう一度言いますが、肩の障害はこれさえやっておけば予防できるというものは存在しません。
最適な技術で一回の動作の負荷を減らし、多方面からのアプローチで多因子を予防する。
これが必須になります。また理学療法士になってから自信をもって発信できたらいいなと考えています。
まとめ
今回は水泳バイオメカニクスのクロール編ということで、クロールとはどういう泳ぎなのかを解説していきました。
ちょーっと今回長くなってしまったので、実際の練習方法などはバタフライ編が終わってからにさせてください🙇
肩の障害についてたくさん語ってしまったので、このままだとこれをやれば肩の障害を絶対に予防する!と解釈されてしまう方もいらっしゃると思ったので、しっかりと分けたいと思います。
とにかく、今回はクロールって何をしてるの?といったことがなんとなくわかってもらえればうれしいなと思います。
次は背泳ぎについて書きますので、ご興味がありましたら是非ご一読ください。

参考文献
・Toussaint HM et al. 2002
・Schleihauf RE 1979
・Pink M et al. 1991
・Yanai T et al. 2004
・Deschodt VJ et al. 1999
・Sein ML et al. 2010
・Barbosa TM et al. 2006
・Shoulder injury systematic review 2023



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