水泳選手に筋トレは必要なのかージュニア選手を対象に論文×現場から考える

shiroです。

「筋トレはやっても大丈夫なのか」、「下手に筋トレすると怪我をしそうで不安」

このような質問は選手からも保護者様からもよくきます。

そしてこの質問にはこんな背景があるのではないかと思います。

  • ネットで調べるといろんな意見があるし、信用できるかわからない
  • 「身長が止まる」という話も聞く
  • コーチによって言うことが違う

今回は論文×現場で理論と実際を考えながら両方を綴ろうと思います。

筋トレは「ただやれば速くなるもの」でも、「必要ないもの」でもありません。

本記事は筋トレを「何のために練習に組み込むのか」をわかりやすく整理していきますので、ぜひ最後まで読んでいただけたら嬉しいです。

まず現場の話から

現場での実感から言うと、ジュニア選手が筋トレをする理由は

怪我の予防

が最も大きな目標であると考えています。(もちろん神経系の発達や筋肥大もパフォーマンスアップに重要な要素ですが)

「水泳はケガが少ないスポーツ」と言われることが多いですが、正確には「比較的急性外傷の少ないスポーツ」であり、慢性障害は決して珍しくないと思っています。

  • 肩が痛いけど泳いでいる
  • 膝に違和感があるけど変わらない練習を行う
  • フォームが崩れてさらに悪化する

こういった選手は珍しくありません。

数字で見るとより鮮明です。

ある大規模調査(202名のジュニア選手対象)では、競技歴が7年を超えると怪我の累積件数が平均3.09件に達することが報告されています(競技歴2年未満では1.91件)。

「長く泳いでいる選手ほど傷害が積み重なる」ということです。特に多いのが「肩」

怪我の中でも肩の痛みは全体の約33〜34%を占め、最も頻発する問題です。

「水泳選手は肩が痛くなる」というのはよく言われることですが、具体的にどのくらいか。

研究によって定義が異なるので数値のばらつきは大きいですが、671名の米国ジュニア選手を対象にした大規模研究(Aiyegbusi et al., 2024)では、約49〜51%が何らかの肩の痛みを経験すると報告されています。

2人に1人以上、ということです。

なぜ肩が痛くなるのか

理学療法の視点で現場を観察していて、多いと感じるケースは

  • 肩が柔らかすぎる
  • 外旋筋群・肩甲骨周囲筋の弱さ
  • 体幹の不安定性

です。

これらの影響がにより、フォームの乱れ(誤用)という形で身体に現れます

つまり、

「泳ぎすぎている(過用)」のではなく、「支えられていない(誤用)」

状態です。

ここに対して何もしないまま泳ぎ続けると、当然身体は無理をしていることとなり、壊れます。

では「筋トレで解決できるか」を論文で確認する

肩への効果=エビデンスあり

2025年に発表された研究(ランダム化比較試験)では、12週間の陸上トレーニングプログラム(ウェイトまたはチューブで外旋筋・肩甲骨周囲を強化)によって、シーズンを通じた肩の内外旋バランスの悪化を最小限に抑えられることが証明されています。

“minimizes the progressive shoulder rotational imbalance during the competitive season”

また、別の研究(Colado et al., 2018 / PubMed)では、陸上および水中での抵抗トレーニングによって、筋のアンバランスや疲労感を軽減することが確認されています。

つまり肩のケアについては、陸上での筋トレに明確な根拠があると言えます。

●パフォーマンスへの効=条件次第なのが現実

一方、タイムへの直接的な影響については、論文が示す現実はもう少し複雑です。

システマティックレビュー(Crowley et al., 2017)では、**陸上の一般的な筋力トレーニングの水泳パフォーマンスへの転移(筋トレの上達が水泳の上達につながること)は「一貫していない(inconsistent results)」**と結論づけられています。

効果が出た研究もあれば、

“seven did not report any positive or negative effects”(良くも悪くも効果なし)

という結果の研究も複数あります(Sciencedirect, 2019)。

別のレビュー(Frontiers, 2024)では、筋力は向上したものの

“did not significantly improve swimming performance”(水泳のパフォーマンスには影響なし)

という結果も報告されています。

つまり、「筋トレで筋力は上がる。ただし水泳のタイムに直結するとは限らない」が「筋トレは必要なのか」という問いに対するパフォーマンス面における回答です。

●効果がある場合の数字は「2〜3%程度」

効果が出た研究でのパフォーマンス改善は、

  • ドライランド最大筋力トレーニング:約2.7%
  • プライオメトリクス:約3.6%

(Sports Medicine – Open, 2022のシステマティックレビューより)

これを「小さい」と見るか「大きい」と見るかは人によると思いますが、少なくとも「筋トレで劇的に速くなる」という期待は現実的ではないというのが私の解釈です。

筋トレを正しく利用するために

●最も効果的なのは「水中と陸上の組み合わせ」

2025年のシステマティックレビューでは、

“Combined aquatic and dry-land resistance training…most effectively improves swimming performance”

つまり、水中練習と陸上トレーニングを組み合わせたときに最も効果が出るという結論です。

「陸トレだけやればいい」でも「水中練習だけでいい」でもなく、両方を組み合わせることが大切です。

転移が起きやすいのはスタート・ターン

転移が起きやすいのはスタート・ターン

一方で、より競技に反映されやすいとされているのがスタートとターンです。

Hermosilla et al.(2021年のシステマティックレビュー)では、ドライランドの筋力・プライオメトリクストレーニングがターンパフォーマンスの向上に有効であることが示されています。

壁を蹴る動作は、下半身の爆発的な力発揮(=RFD:力の発揮速度)と直結しているため、陸上トレーニングとの相性がよいと考えられます。

●論文が前提にしていること、現場では起きていること

論文では

  • 週2〜3回
  • 適切な負荷
  • 正しいフォーム

が前提になっています。

でも実際には、

  • 自主トレで適当にやる
  • YouTubeを見て真似する
  • 重さだけを追う

こういったケースがかなり多いと感じます。

その結果どうなるかというと、

  • フォームが崩れる
  • 過負荷になってしまう
  • 筋トレにより怪我が誘発される

筋トレがパフォーマンスを下げることも普通に起こり得ます。

必要なのは水中練習量とのバランスです。

筋トレ単体では良くても、

水泳練習+筋トレ=過負荷

になると意味がありません。

特にジュニア選手の場合、骨の成長が筋肉の発達に追いついていない時期があります(PHV:身長が最も伸びる時期の前後)。この時期は骨格が一時的に不安定になりやすいため、負荷の管理は特に慎重に行う必要があります

●「筋トレをすると身長が止まる」は本当か

この話、一度は聞いたことがある人も多いのではないかと思います。これに関しては

結論:適切に管理された筋トレは、身長の発育を妨げない。

NSCA(全米ストレングス&コンディショニング協会)・ACSM(米国スポーツ医学会)ともに、公式にこの立場をとっています。

骨端線(成長プレート)への損傷リスクは「無茶な重量・崩れたフォーム」から起こるものであり、筋トレそのものの問題ではありません。

むしろ、適切な荷重運動は骨密度・骨強度を高めることが複数の研究で確認されています。

「筋トレ=危険」ではなく、

「指導者なしの無茶な筋トレ=危険」

が正確な表現です。

また、NSCA のポジションステートメントによれば、監督下での筋トレは、サッカーやラグビーなどのコンタクトスポーツと比べて怪我の発生率が顕著に低いことも示されています。

何歳から何をするかー「暦年齢」より「成熟度」

「何歳からウェイトトレーニングをするべきか」という質問もよく受けます。

NSCAは「外部負荷(ウェイト)の導入タイミングは年齢ではなく、技術の習熟度によって決定すること」を明示しています。

同じ12歳でも、骨の成熟度や発達速度には最大2〜3年の個人差があります。「友達がやっているから」は基準になりません。

目安として以下の表を参考にしてください。ただしあくまで目安です。

ステージ目安年齢何を育てる時期か具体的なアプローチ
プレゴールデン〜8歳多様な動きの経験遊びの中で走る・跳ぶ。自重での基礎動作
ゴールデン9〜12歳神経系の急速な発達正しいトレーニングフォームの習得が最優先。 プッシュアップ・スクワット
ポストゴールデン13〜16歳筋力の本格的な構築開始技術が固まったら外部負荷を段階的に導入
競技特化16歳〜種目特異的なパワー発揮高強度RT・専門的強化

ゴールデンエイジ(9〜12歳)でやるべきことは「重いものを持つ」ではありません。

👉 「自分の体を正確にコントロールする感覚を身につけること」

この時期に丁寧に動きの基礎を作った選手は、高強度トレーニングに移行するときのリスクが大幅に下がります。

水泳に本当に必要な筋トレ

では、何をやればよいのか。ジュニア選手に個人的におすすめなのが、

まずは泳ぎを支える筋トレから行うこと

です。

逆にいえば、

「筋肉を大きくするための筋トレは後でもいい」

と私は考えています。ボディビル選手の方が行うような筋肥大に特化した筋トレなどは水泳選手にとって決して必須ではないと思っています。

今回は個人的に優先度の高い部位を3つ挙げてみました。

①肩甲骨周囲の安定性

先ほども述べた通り、水泳においては肩の障害が多い傾向にあり、肩の安定性は競技を長く続けていくために身体を守る「鎧」になってくれます。

  • 回旋筋腱板
  • 前鋸筋
  • 僧帽筋下部

ここをうまくs使えるようになると、

  • キャッチが安定する
  • 肩へのストレス軽減

などが期待できます。

②体幹の安定性

以前の記事でも書いたように、体幹の安定性があってこそ、四肢の動きは輝きを増します。

具体的には

  • 身体を水平に保つ
  • キック効率
  • パワフルなストローク

に直結します。

体幹が弱いと水の抵抗を大きく増やすことになってしまいます。

③下半身の出力

先述の通り、スタートやターンの爆発的な筋出力は陸上トレーニングと相性が良く、これを意識して筋トレをすることも意識性の原則から有効だと考えられます。

しかし、いわゆる高負荷・低回数の筋トレではなく、筋肥大も考えた8回~12回ほどの回数でよいと考えています。

これは私も一時期勘違いをしており、神経系の発達が目的なら最初から低回数でもいいのではないかと考えていました。

しかし、臨床実習で学んだのですが、

高回数のトレーニングでも神経系は十分に発達する

ということです。

実際にやっているメニュー

現場でジュニア選手に実施しているものをいくつかそのまま紹介します。

上半身

外旋チューブトレーニング:肘を90°に固定して外側に回す。掌を上にして大体60°位を目安に動かす。外旋筋へのアプローチを目的としたトレーニング。10~15回を2~3セット

内旋チューブトレーニング:チューブの端をドアや柱などに固定し、反対を片手で持つ。肘を90°に固定して内側に回す。二の腕は体にぴったりとつけて、手首を動かさず45°位を目安に動かす。内旋筋へのアプローチを目的としたトレーニング。10~15回を2~3セット

体幹

プランク・サイドプランク:腹筋群・脊柱起立筋群をターゲットとした代表的な体幹トレーニング。30秒から60秒×3セット

ブリッジ:膝を立てて仰向けになり、お尻を浮かすことで、大殿筋とハムストリングスを鍛えることができる。15回2~3セット

下半身

スクワット:膝がつま先より前に出すぎない・腰が丸まらない、を徹底。 10〜15回×2〜3セット

ランジ:片足を踏み出して腰を落とす。スタート時の前後スタンスに近い力発揮パターン。 → 左右各10回×2セット

ジャンプ: 「できるだけ速く・素早く」という意図を持って跳ぶことがカギ。接地時間を短く。 5〜10回×2セット

頻度

  • 上半身・体幹→週2回以上
  • 下半身→週2回から3回

今回紹介した上半身・体幹のとレーニングはなるべく高頻度で行ってほしいですが、継続することが大切なので、ハードルは低く選手には伝えています。

下半身については負荷がやや高いので、週2回程度でいいと指導をしています。

大切なことは、

正しいフォームを継続すること

です。

そのためにも定期的にスクールでも筋トレを組み込んだメニューを行い、フォームチェックを兼ねた練習を行います。

崩れたフォームでの反復に意味はほとんどなく、むしろ逆効果になってしまうと思っています。

まとめ

今回は水泳をやるうえでの筋トレについて、論文と現場の実際から書いてみました。

まず、「筋トレをしすぎると身長が止まる」は科学的に否定されています 危険なのは「無茶な筋トレ」であって、筋トレそのものは適切な管理の下であればパフォーマンスを悪くすることはないとされています。

肩の怪我の予防への効果についても、論文でもはっきりと示されています。長く水泳をやるために、ジュニアの時期に合わせた体づくりを意識することが望ましいです。

参考文献

  • NSCA Youth Resistance Training Position Statement (2009)
  • ACSM Youth Resistance Training Guidelines
  • Aiyegbusi et al. (2024). Shoulder Pain in Competitive Swimmers. IJSPT.
  • Tate et al. (2012). Swim-Training Volume and Shoulder Pain Across the Life Span. IJSPT.
  • Crowley et al. (2017). The Impact of Resistance Training on Swimming Performance: A Systematic Review. Sports Medicine.
  • Sports Medicine – Open (2022). Effect of Different Types of Strength Training on Swimming Performance: A Systematic Review.
  • Sciencedirect (2019). A systematic review on dry-land strength and conditioning training on swimming performance.
  • Frontiers in Physiology (2024). The methodology of resistance training is crucial for improving front crawl performance: a systematic review and meta-analysis.
  • Muniz-Pardos et al. (2019). Swim-Specific Resistance Training: A Systematic Review. JSCR.
  • OUCI (2025). Swim-Specific Resistance Training: A Systematic Review.
  • Colado et al. (2018). The Effectiveness of Land and Water Based Resistance Training on Shoulder Rotator Cuff Strength. PubMed.
  • OUCI (2025). Dry-Land Shoulder Rotators Strength Training Program in Injury Prevention in Competitive Swimmers.
  • Hermosilla et al. (2021). Effects of Dry-Land Training Programs on Swimming Turn Performance: A Systematic Review. MDPI.
  • Maffiuletti et al. (2016). Rate of Force Development. European Journal of Applied Physiology.
  • De Ruiter et al. (2020). Effects of Resistance Training on Rate of Force Development: meta-analysis. Sports Medicine.

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